思考や感情、知覚、意欲など、精神機能の多くの領域で独特の症状を呈する病気が、統合失調症です。かつては精神分裂病と呼ばれていました。発病のピークは20代の前半で、慢性化する傾向にあります。
脳の組織に肉眼的な異常が無いため、長年原因不明の疾患と思われてきました。しかし、最近では脳の形態や働きに異常が見つかりつつあり、現時点では、神経シナプスにおける情報伝達の異常が症状と関係していると考えられています。
一生の間に発病する確立のことを「罹病危険率(りびょうきけんりつ)」といいますが、統合失調症における罹病危険率は約1%となっており、有病率(人口1000人中の病人の割合)は3~5人程度となっています。
また、統合失調症は、精神病院の入院患者の60%程度、外来患者の20~30%を占めており、精神疾患の中でも最も多い病気の一つとされています。
統合失調症の原因
脆弱(ぜいじゃく)性とストレスが主な原因として考えられています。脆弱性とは病気のなりやすさを表す言葉で、遺伝的背景の他、妊娠中や周産期の感染や外傷、アルコール・薬物の乱用などがそれにあたります。
ストレスには受験や就職、結婚、離婚などの、生活を送る際の出来事や友人関係、家族関係などを原因とする、継続する精神的なストレスがあります。
統合失調症は遺伝が関係する病気ではないとされていますが、第一度親族(親、子、兄弟)に病気がある場合の発病率は約0.1%、第二度親族(祖父母、孫、叔父、叔母、甥、姪)に病気がある場合の発症率は約4%となっています。
また、一卵性双生児の一人が発病している場合では、残りの一人の発病率は約40%。両親が病気の場合に子どもに発病する割合が約40%となっています。
これらの数字は、一般人口の発病率である1%に比べると高くなっています。そのことからも、遺伝的な要素があると考えるのが普通ではあります。しかし、統合失調症は環境的な要因も強いということが分かっています。
また、病気の症状も多彩であり、治療に対する反応も様々であることから、一つの疾患ではなく、「症候群」と考えたほうがよいくらいなのです。
統合失調症の症状
急性期の症状
幻覚や妄想、興奮など、誰の目にも異常ととれる症状が全面に出てくる時期です。このような症状を「陽性症状」と呼びます。
幻覚としては、幻聴や幻視が特に多く、中でも人の声が聞こえてくる幻聴が多く出現します。聞こえる内容にも種類があり、以下はその一例となります。
- 「~をしなさい」といった命令系
- 「またあんなことをしたのか」といったような批判的なもの
- 「〇〇さんは今こんなことをしています」という実況中継風のもの
- 複数の人間が自分を批評するというもの
幻聴の全体的な特徴としては、自分自身を批判するような内容が多いようです。迫害されたり、監視されている、盗聴されるといった内容です。
こういった幻聴によって、精神状態は不安定になっていき、切迫感が強い状態となってしまいます。また、言語が纏まらなくなったり、興奮や昏迷(こんめい)の状態もよく見られます。
幻覚系だけでなく、食欲の低下や睡眠も障害されて昼夜が逆転し、周囲とのコミュニケーションもうまくいかなくなってきます。
病状が進行してくると、自分が病気だという認識をもてず、周囲が病院への受診をすすめても受け付けない状態になることもしばしば見られます。
急性期はそれほど長くは続かず、多くの場合は数週間程度でおさまるといわれています。陽性症状に対しては薬の服用で劇的に症状が改善されますので、この時期は薬物療法による治療が中心となります。
また、必ずしも入院を要するというわけではありませんが、本人が希望する場合や家族の看病が難しくなった場合、他人を害したり、自傷行為・自殺行為が見られるような場合には入院を考慮します。
回復期の症状
陽性症状が徐々に減り、自分を取り戻していく時期が回復期です。陽性症状に巻き込まれる度合いも少なくなってきます。
陽性症状は完全に消える場合と、相当程度に残ってしまう場合まで、回復の度合いに大きな差が見られます。しかし、初回エピソード(はじめて症状が明らかになったとき)では幻視が消失する割合が90%程度です。
この割合は、再発を繰り返すごとに低下していくことが一般的です。なので、統合失調症の再発防止がなによりも大切なこととなるのです。
陽性症状が減少するとともに、陰性症状と呼ばれる症状が目立つようになってきます。
陰性症状とは、感情の鈍ま(のろま:喜怒哀楽の表現が乏しくなる)、会話が乏しくなる、意欲が低下する、ひきこもりがちになる等の症状のことで、一見したところでは異常とは見えないような症状のことを、総じて陰性症状と読んでいます。
また、回復期にはうつ病のような状態になることもあります。この時期では、薬物療法を継続しつつ、現実面への接触を徐々に進めていきます。
安定期の症状
陽性症状・陰性症状ともに、ある程度固定する段階が安定期です。全ての人が症状を残すというわけではありませんが、70~80%の人には症状が残ると言われています。
陰性症状が強い場合は、他人とのコミュニケーションや、家事・仕事の能力、社会資源を利用する力が低下するので、直ちに元の生活に戻るのが難しくなります。このような障害を「能力障害」と呼びます。
能力障害に対しては薬物療法による効果は少ないので、心理社会的治療が適応されます。
統合失調症の症型
病気の症状は非常に多彩ですが、症状の組み合わせはある程度決まっており、いくつかの病型に分けることができます。
破瓜(はか)型
この型では陰性症状が中心となり、時に陽性症状が活発になって再発をみるタイプです。若年層にも発症し、予後がもっとも悪いタイプです。
緊張型
興奮や昏迷(こんめい)の症状が主体で、陰性症状は比較的少ないタイプが緊張型です。若年層に発症し、予後は良い部類になります。
妄想型
妄想型と呼ばれる病型は、文字通り妄想や幻覚が主体となり、陰性症状は比較的少ないタイプです。発症年齢は30歳前後以降に発病する事が多く、予後は良いほうです。
統合失調症の長期経過
統合失調症の発病後、最初の5年間くらいは症状が強く出やすい時期です。その後、次第に症状は落ち着き、10年ほどで病状の変化が乏しくなってきます。
20年以上の、非常に長い経過を調べた研究結果によると、4人中3人は安定した状態にあったようです。その落ち着きどころは、治療と軽度の障害をあわせて50~60%、常時介護を要する重度の障害では10~20%となっていました。そして、治療を受けていない人は、4人に1人程度でした。
職業的に自立できるかどうかは、社会状況にも左右されます。群馬大学の調査では、自立と半自立をあわせて60%程度という統計でした。
「3分の1は治り、3分の1は治らず、残りの3分の1は良くなったり悪くなったりを繰り返すと」言われていたのが、従来の統合失調症でした。しかし、上記の群馬大学が発表したデータを見るに、従来の考えよりも経過は良いといえそうです。
統合失調症の治療
統合失調症の治療の目的は、症状の改善に加えて社会的な適応性を高めることにあります。そのため、薬物療法と心理社会的治療を組み合わせた治療が行われます。急性期の治療では薬物療法が、安定期には心理社会的治療が中心となります。
治療は本人が安心できる環境で行う必要がありますので、急性期の入院治療はできる限り最小限に抑え、早期に在宅治療に切り替える必要があるといわれています。
治療者との関係も重要で、できる限り同じ医師と医療スタッフと接触することが望ましく、病院を変更する場合でも治療方針は継続させることが重要です。