ADHDはAttention Deficit Hyperactivity Disorderの頭文字を取って略したもので、日本では「注意欠如多動性障害(ちゅういけっかんたどうせいしょうがい)」と呼ばれています。
一般的には子供に発症の多い疾患とされていますが、近年では大人になった後でも、症状が目立たなくなるだけで症状自体は残るとされており、一種の社会問題となっているとされています。
ADHDに見られる症状
一般的には、以下の様な症状が確認されることが多いようです。
不注意が目立つ群の特徴
- 忘れ物が多く、物をなくしやすい
- 気が散りやすく、集中力が続かない
- 興味があるものには集中しすぎてしまい、切り替えが難しい
- ボーっとしていて、話を聞いていないように見える
- 行動が他の子よりワンテンポ遅れる
- 字が乱れる
- 不器用(縄跳びなどが苦手)
- 片付けられない⇒汚部屋と精神疾患(ADHD)の関係とは?
- あまり目立たない(ADHD であることに気づかれにくい)
多動性・衝動性が目立つ群の特徴
- 落ち着きがなく、授業中立ち歩く
- 体を動かすことがやめられない
- 衝動性が抑えられず、ささいなことで手を出してしまったり、大声を出したりする
- 乱暴な子、反抗的、という目で見られやすい
混合群の特徴
- 不注意と、多動性・衝動性の両方の特徴をもつ
- 忘れ物が多く、物をなくしやすい
- 落ち着きがなく、じっとしていられない
- 衝動が抑えられず、順番が守れなかったり、ルールが守れなかったりする
- 不注意、多動性、衝動性のあらわれ方の度合いは人によって違う
出展:親と子のためのADHD(注意欠陥・多動性障害)情報サイト
この様に、注意欠陥が目立つタイプと衝動性・多動性が目立つタイプ、そして両者の混合タイプがあるとされています。
そして、この病気は一般的には「子供の病気」と捉えているのですが、ADHDの症状を示した子供の70~80%は、大人になってからも何かしらの症状を持続的に持っていると言われています。
代表的なADHDの症状15個
以下の項目のうち、複数が当てはまる場合はADHDを疑い、専門医を受診したほうが良いかもしれません。
- 重要なことを後回しにしてしまう。
- 計画したことが最後まで実行できない。
- 単純なルーティンワークにどうしてもなじめない。
- 夜に熟睡できない。
- コーヒーにうまく砂糖が入れられない。
- はさみがうまく使えない。
- 新しい機械の使い方を教わってもうまく作動させられない。
- 自動車の運転中にやたらとクラクションを鳴らす、頻繁に車体をこすってしまう。
- 運転中に車間距離がつかめない。
- スリッパをうまく脱ぐことができない。
- 電気をつけっぱなしにしがちである。
- 鍵をかけ忘れる。
- メールを書こうとしても文章がまとまらず何度も読み返す、送信相手を間違える。
- ネガティブシンキング(悲観的)になりがちである。
- 自分を抑えることができない。
上記は女性に限ったことでではなく、男性にも当てはまります。
ADHDの原因
一般的には、女性よりも男性に多い疾患とされています。学童期では出現率が3~5%とされており、男女比は3~5対1です。
原因としては、最近の研究結果から遺伝要因の関与が高いと言われていますが、一部には、脳の感染・外傷といった後天的原因によるものもあります。
しかし、2016年現在でも確かな原因の究明には至っておらず、ストレスや睡眠も関係しているのではないか?等、様々な諸説も原因として挙げられています。
- 脳の部位説
機能不全が疑われている脳の部位には、大きく3箇所ある。ADHDの子供達はこれらが有意に縮小していることが見出される。 - 神経基盤説
健康な前頭前野は行動を注意深く選定し、大脳基底核 (Basal ganglia) は衝動性を抑える働きを持つが、ADHDのケースではそれがうまく作動していない。 - 食事説
食事とADHDとの関連性について指摘する報告があるが、関連性はほとんど証明されていない。アメリカやイギリスでは食品添加物などを除去した食事の比較が行われている。2007年にイギリス政府は、食品添加物の合成保存料の安息香酸ナトリウムと数種類の合成着色料が子供にADHDを引き起こすという研究を受け、これらを含むことが多いドリンクやお菓子に注意を促している。 - 睡眠
最近の睡眠科学では、睡眠がADHDの増加に大きく関わっていると言われている。
出展:wikipedia 注意欠陥・多動性障害
治療について
子供に多い疾患であることから、基本的には「心理社会的支援」から治療を開始します。心理社会的支援には以下のようなものがあります。
問題行動を修正する行動療法
正しい行いをしたときや物事をなしとげたときには、精一杯誉めて評価するといった形で、行動の修正を図る。
社会性を養うソーシャルスキル・トレーニング(SST)
感情と行動をコントロールする術を身につけ、友だちとの円滑な相互関係を保てるような基本的な社会的スキルを学びながら、日常生活の中でそれらのソーシャルスキルをうまく使えるように訓練します。
過去の失敗や将来の不安をケアする心理療法
ADHDによる失敗や挫折によって抱えた、感情面・心理面のダメージをケアします。また、将来への不安を解消し、自己評価を高める目的も、心理療法にはあります。
他にも、ペアレント・トレーニング(親の訓練)や教育的介入などもありますが、症状の程度によっては投薬治療を併用することもあります。
予防と対策は?
ADHDは発達特性に起因するものなので、育て方やしつけが原因となることはありません。ただし、接し方や育て方が症状に影響を与えることはあると言われています。
- テレビやおもちゃなどの刺激物を排除する
- 部屋の隅を利用した三角コーナーを学習の場所にする
- 指示を具体化する
- 絵に描く
- 順番に必要なものを並べる
- チェックリストを作成する など
- 気づいたらできるだけ早くほめてあげる
- 子どもと目線をあわせ、自分の喜びをストレートに表現する
- トークン(ポイント)表を活用する
- 好ましくない行動がみられたら、注目せずに少し遠くで見守る(目をそらす、他のことをする等)
- 興奮している場合は、ひとまず落ち着かせる工夫を
- 指示は一度にひとつずつ具体的に行う
- 注意する時は「近づいて・穏やかに・静かな声」で注意する
これらの予防と対策方法は、治療の項目で紹介した、「ペアレント・トレーニング(親の訓練)」に該当する部分となります。厳しくしつけてもそれが逆効果となることも多いとされるADHDは、まずは親が正しい知識を身につけることが大切です。
大人に見られるADHD
ADHDは子供だけに現れる疾患ではありません。過去にADHDを発症したうちの、実に70~80%が何かしらの症状を持続的に持っていると言われています。
以下は大人のADHDに見られる主な特徴です。
- 時間の管理が苦手
- せっかち
- イライラしやすい
- 結論を急いで失敗する
- 片づけられない
- 継続して物事にあたることができない
- 集中できない・すぐに集中が切れる
- 頻繁に遅刻してしまう
- 物事を先延ばしにする
- うっかりミスが多い
不注意、注意の持続困難、多動性、衝動性が基本的な原因となっていますが、これらの特徴を見ると、自分にも該当するという箇所もいくつか確認できるのではなでしょうか?
それだけ、ADHDが特殊な病気ではなく、一般的であるともいえますが、整理術やノート術、見える可等を行うことで、防ぐことが可能なものもあります。
大人の女性に見られるADHDとは?
ADHDは子どもだけでなく、多くの女性にも起こる症状だといいます。
男女比でいえば、男性の方が罹患することが多い病気ではあるのですが、女性は隠れADHD(注意欠陥多動性障害)の人が多いと言われており、自分ではまったく気付けていないという人も少なくありません。
また、女性のADHDは大人になって発覚するケースも多いと言われています。
- 夢想癖がある
- 複数のタスクを1度にする
- すぐ感情的になる
- 会話の中心になりたがる
- 遅刻が多い
- 数学や作文が苦手
- 片付けられない(最近よく目にするキーワード「汚部屋」になりやすい)
これらは大人の女性に見られるADHDの一般的な特徴ですが、特に「片付けられない」というキーワードは、ドキっとした女性も多いのではないでしょうか。
最近は女性スタッフのみで編成された、専門業者による「女性の汚部屋のお片付け」というサービスが多いそうです。こういったサービスが流行るということは、それだけ「片付けることができない女性」が増えているというわけですね。
対処方法・改善策について
大人のADHDにも様々な症状があり、その症状によって対処方法も違ってきます。しかし、自分の症状をしっかりと意識して、それに対して予めシミュレーションを行うことで、症状を軽減できる可能性もあります。
- ミスを減らすためチェックリストを作る(問題の見える化)
- 小さなことから問題を解決し、自身をつける(成功体験の蓄積)
- 持ち物リストを作成する(忘れ物の防止)
- 物事(決まり事)に対してしっかりと時間を設定する
- 自分の周り(机等)に自分を誘惑するものを置かない
全ての対策を同時に行うと無理が生じて、症状が悪化してしまう可能性もあります。まずは自分に一番当てはまる項目から対処していき、それに慣れてきたら次の段階へ・・・という風に、段階的に症状を改善するように努めましょう。
特に、やることを見える化する「チェックリスト」と「持ち物リスト」は効果的と言われています。物忘れが激しいと感じる場合は、まずはこの二つから対処していくと良いかもしれません。
ADHDを改善していくには、まずは「症状を自覚する」ことが非常に重要です。症状を自覚したら、それに対処する方法を考えます。
この様にして、ひとつずつ、確実に、あせること無く少しずつ前進していくことが、改善への近道となります。
参考サイト(外部リンク)
- 注意欠陥多動性障害(ADHD)・・・食品に原因があると言及されています。
- アメリカ人女性が語る大人のADHDとその付き合い方・・・3歳頃からADHDと診断されたアメリカ人女性、キャロライン・ネルソンが、自らの経験とADHDとの付き合い方について語った記事
- 大人の発達障害『ADHD(注意欠陥・多動性障害)に苦しむ大人。・・・ADHDを抱える当事者の方の取材記事。